2018年1月8日の「成人の日」にショッキングなニュースが飛び込んできました。振り袖の着付けを手がける「はれのひ」という会社が突然連絡を絶ち、多くの契約者が成人の日に着物を着ることができなくなった、というものです。日本の伝統的な服装である着物は、今では特別な日でしか着られない装いになりつつあります。呉服業が冠婚葬祭業化しており、そのため冠婚葬祭業と同様の問題を抱えているという論調も見受けられるので、この事件をきっかけに改めて冠婚葬祭業を考えてみましょう。
「はれのひ」事件の概要
はじめに事件のおさらいをしましょう。「はれのひ」は、横浜や八王子、博多などで振り袖の販売・レンタル・着付けを事業として営んでいました。成人の日当日「はれのひ」は何の通告もなく営業を停止するとともに連絡が不通となります(博多店のみ独自の判断で営業しました)。着付けを依頼した多くの人は、成人の日の式典に着物を着ることができなくなり、本稿を書いている1月14日時点で被害者は700人超、被害総額は2億円超にのぼっています。代表者をはじめ経営に関与している人物の行方は掴めず、計画的な夜逃げであるという見方が強まっています。
業界構造が事件の原因ではない
着物離れが深刻な現代では、着物を着る機会は「成人の日」「結婚式」「卒業式」など限られたときしかないため、消費者にとってみると葬儀サービス同様に費用の妥当性を掴みにくい。そこに悪徳事業者が生まれる土壌があり、起こるべくして起きた事件という論調の記事もありましたが、それはあまりにも強引すぎます。今回の事件は、経営能力と人としての倫理観を欠片も持ち合わせていなかった例外的な人物が引き起こしたもので、呉服業や冠婚葬祭業の構造的な問題が起因している訳ではありません。
しかし、婚礼、葬儀、式典など冠婚葬祭にまつわるサービスの内容や価格が消費者にとり分かりにくい部分があることは確かです。
情報格差が最大の課題
冠婚葬祭関連のサービスに関して消費者トラブルが発生する理由は、消費者側の知見がサービス提供者と比べて著しく劣るためです。振り袖の費用にしても、葬儀費用にしても、日常的に利用するものでないため、品質の良し悪しや価格相場感が分かりにくい。この情報格差が、消費者が不満を抱く原因になっています。しかし、国民生活センターが公表している「消費生活相談の概要」では、冠婚葬祭互助会に関する相談件数は、2016年度は2,536件で2015年度の3,770件より大幅に減少し、減少件数の多い相談内容の上位9番目にランクされています。業界と消費者の間の情報格差が縮まってきているのかもしれませんね。
業界全体での取り組み
呉服業界では、脱非日常を目指しデニム地の着物を提案する「KAPUKI」や、脱旧体質を目指してX JAPANのYOSHIKIが立ち上げた新ブランド「ヨシキモノ」などの新しい取り組みも始まっています。呉服業界としては、非日常サービスから脱却することが呉服業本来のあり方に戻ることとなるでしょう。
一方で、脱非日常の道を歩むことができない冠婚葬祭業界ができることは、消費者との情報の共有です。葬儀サービスなどに関しては、全国各地の葬儀業共同組合やその全国組織である「全日本葬祭業共同組合連合会」、互助会の全国組織である「全日本冠婚葬祭互助支援協会」などの業界団体が中心となって、サービスの品質や費用の説明といった情報提供を進めています。このような業界全体の取り組みが消費者から信頼を得るための有効な方法になるでしょう。
私たちサービスを利用する者は、冠婚葬祭にまつわるサービスのように、頻繁に利用しないものだからこそ、サービスを提供する事業者だけでなく業界団体なども含めて、できるだけ多くの情報を集めることを常に念頭に置いておくことが重要になりますね。
国民生活センター「2016年度のPIO-NET にみる消費生活相談の概要」http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20170810_1.pdf
KAPUKI http://kapuki.jp/
ヨシキモノ http://yoshikimono.com/
全日本葬祭業共同組合連合会 http://www.zensoren.or.jp/
全日本冠婚葬祭互助支援協会 http://www.kiyoraka.jp/