最近は散骨をする人が増えているようですね、ネットで調べると多くの代行会社が見つかります。そのような会社や、暮らしに関する情報サイト(大手でも!)などでも、『散骨は認められている(つまり合法)』という論調で散骨を勧めています。しかし、そんな言葉に騙されないように、国は認めてはいません。
「認められている」とする理由は
埋葬に関しては「墓地、埋葬等に関する法律」で、墓地以外への埋葬を禁じています。また刑法では、死体および遺骨等の損壊・遺棄を禁じています。従来は法律を直接的に解釈して、墓地以外に砕いた遺骨を撒くことは法律違反と考えられていました。ところが1991年に「葬送の自由をすすめる会」というNPO法人が発足し、葬送は憲法で保障されている基本的人権の1つであると主張し、自然葬と称して散骨による葬送を行ったのです。このときに同法人は罪に問われることはなく、国側は法務省が「葬送の一貫として、個人が節度をもって行う分には、刑法に違反しない」、厚生省(当時)が「墓地、埋葬等に関する法律では散骨は想定していない」という見解を述べたと言われています。このことが日本でも1991年から散骨が事実上認められている、という根拠になっています。
文書には残っていない
国の制度や規制あるいは許認可というものは法律(法律、政令、省令、告示)や行政文書(通知、通達など)で明文化されて誰でも目を通すことができます。またそれぞれの解釈について裁判所が下した判例などでも知ることができます。ところが、法務省、厚生省の見解というものは現在どこにも文書として残ってはいないのです。行政上の公式な決定や方針、指針であれば、必ず所管省庁の正式な文書として残ります。つまり国が散骨を認めているわけではない、ということになります。
国が積極的でなかった理由
このあたりは想像でしかないのですが、まずなぜ合法としないのか考えてみました。散骨を希望する人は日本国内において圧倒的に少数です。散骨を是とする方針に転換するのは国民感情を考慮した場合に非現実的です。では明確に違法としなかった理由は何でしょうか。葬送は個人の宗教観に関わる問題でもあります。そこに制限をかけてしまうことは基本的人権の尊重に抵触することになってしまうから躊躇したのだろうと思います。
その後の国と地方自治体の動き
1997年に開催された厚生省の審議会「第7回これからの墓地等の在り方を考える懇談会」の中で自然葬(散骨)についても議論をしています。この中で、葬送の自由を憲法の基本的人権の1つ幸福追求権に含まれるとしつつも、公共の福祉の制限を受けるため法律等(地方自治体の条例含)による規制は可能としています。その上で、葬送は地域性が影響するものなので、地方自治体の条例で規制することが合理的であるとするとともに、問題が生じたら規制すれば良いとしています。
その後2000年代に入ってから、散骨は合法と称する人や団体が増えだした結果、各地で散骨に関するトラブルが発生し始めました。顕在化した最初ともいえるのが北海道長沼町で起きた自然葬を営む事業者と住民のトラブルです。これ以外にも各地でトラブルが発生し、厚生労働省は2004年に行政文書(平成16年10月22日 健衛発第1022001号)で「散骨も、『墓地、埋葬等に関する法律』の規制対象である」との見解を出し、散骨の規制に舵をきりました。長沼町は厚生労働省の見解を受けて、2005年に日本初の散骨を規制する条例を制定、この規制の動きは全国に広まりだしました。
今後の見通し
これも想像です。国はトラブルが起きなければ規制しない方針でした。つまり公共の福祉を害さずに節度ある散骨であれば問題なかったのです。でも考えてみれば分かりますが、誰の迷惑にもならずに遺骨を撒く場所はそうありません。公有地は当然NGです。私有地であればいいかというと、地上に撒くわけですから(長沼町のように)近隣の住民は反対するでしょう。海岸や川、湖は観光地でもあり、また漁業を営む場所ですので関係者は受け入れないでしょう。これらの場所に散骨をする人が増えれば、それだけトラブルも増え、ますます規制は厳しくなると思われます。
海洋葬、樹木葬の散骨
船で外洋に出るかあるいは飛行機をチャーターし空から散骨をするサービスを提供している事業者もあります。この場合は迷惑のかかる人もいないため公共の福祉を害しているともいえず現状は規制の対象とはなっていません。でもそれは知る人も少なく大きなトラブルになっていないからです。例えば散骨された海で捕れた魚、空気中に漂う砕かれた遺骨、これらを嫌がる人が増えだすと規制される可能性が高いです。
また樹木葬は、埋葬が認められている墓地で行われるから問題ない、と説明しているところが多いですが、『墓地、埋葬等に関する法律』ではあくまでも埋葬であって、地面に埋めない散骨は厳密には法律に違反しています。これも将来的には規制対象になる可能性があることは覚えておいてください。
最後になりますが、散骨を提供している事業者のほとんどが、「許可された自然の山や海に」などと言っていますが、そんなものは存在しません。国は規制の対象としてとらえているが、地方自治体が条例で禁止していない地域では、散骨をしても罰せられる可能性は低い行為でしかないことを認識しておいてください。