お葬式のときに「遺族を代表して喪主からのご挨拶」という言葉を耳にします。また喪主とは別に、とくに葬儀会社の人からは「施主さま」という言葉も聞きます。2つの違いは何でしょうか。ここでは喪主と施主を簡単にご説明しましょう。
本来の意味と役割
喪主(もしゅ、そうしゅ)を辞書で調べると「葬式を営む主人」とあります。文字通り「喪に服する主」という意味で、遺族の代表ということです。一方で施主(せしゅ)は辞書には「現在では葬式や法要などの当主をさす」とあり、これだけだと喪主と同じですね。ただしもう一文「元来布施をなす人という意味で,仏教の僧侶に供養する人をさす」という説明もあります。つまり本来の施主は「お布施をする主」という意味で、お葬式のときの費用を負担する人ということなんです。日本では旧民法の「家督相続制度」があった時代から現代まで、故人の財産の筆頭相続人が遺族を代表する喪主であり、お葬式の費用を負担する施主となるため、基本的には同一人物です。ただし中には次のように喪主と施主が異なるケースもあり得ます。
- 喪主は故人の配偶者がつとめ、お葬式の費用は子どもが負担するために、子どもの代表者が施主になる場合。
- 社葬・団体葬などで、費用は会社(団体)がもつために施主となる場合(喪主は遺族代表です)。
上記のとおり本来の役割が異なるため、言葉の使い方には気をつけたほうが良いです。「遺族の代表者」としては一般的に「施主」ではなく「喪主」が使われます。葬儀会社の人が「施主さま」というのは費用面の話をする相手だからなんですね。なお、喪主という呼び名は、喪に服している期間だけです。四十九日(忌明け)の法要が済めば喪主ではなくなります。それ以降の年忌法要などでは「お布施をする主」つまり施主と呼ばれるようになります。
喪主(施主)には誰がなる
旧民法時代は、家督を相続する男性が喪主を務めるしきたりでした。普通は長男なので長男が誕生すると「位牌持ち(=喪主)ができた」などとも言われました。現代でも出棺時には喪主が位牌を持つという慣習は残っていまが、誰が喪主を務めるかは遺族の協議事項です。もっとも旧来の慣習が色濃く残る地方では長男が喪主を務めるのが暗黙の了解事項になっているケースが多そうです。都市部では配偶者(夫を亡くした場合の妻)のケースも多く見られます。喪主は複数人であっても構わないので、兄弟全員や、配偶者と子どもが共同で務めることもあります。少し前までは、子どもが亡くなった場合には「逆縁」なので親は喪主を務めない、という慣習もありましたが、現在では親が喪主を務めるケースも増えています。
現代の役割
1960年代から1970年代はじめまでは、冠婚葬祭の担い手は地域の共同体でした。お葬式も「葬式組」「講中」「クミ」「世話役」などと呼ばれる共同体が実務を運営したので、喪主としての役割は遺族を代表して弔問を受けること、施主としての役割はお葬式の費用を支出することでした。都市化が進んだ現代の日本は地域の共同体が崩壊しつつあります。お葬式の実務の担い手がいなくなったため、お葬式の実務全般に目を通すことが喪主(施主)の大きな役割になったのです。共同体時代には大人数で担っていた実務を、1人ないし少人数の喪主や遺族で担わなければいけなくなったため、お葬式の実務を提供するサービスがより重要になってきています。
余談ですが
「施主」にはもう1つ「建築主のこと。施行主」という意味もあります。建築工事や土木工事の発注者のことを指し、個人だけでなく法人も施主となります。施工主という意味からは、1棟まるまる建築する場合だけでなく、リフォームや家の一部を改築する場合なども「施主」と呼ばれます。この場合には「せしゅ」だけでなく「せぬし」と呼ばれることもあります。日本語のややこしいところですが、覚えておくといいでしょう。