遺体を腐敗から護り、生前と変わらない姿にすることを目的とするエンバーミングは、遺体に対する科学といっても良い技術です。大切な故人の遺体に対して、どのようなことが施されるのかは、知っておきたいことかとも思います。そこで、簡単ではありますがエンバーミングの技術について調べてみました。
血管から血液を抜く
腐敗の元凶は遺体内部に残っている血液や体液です。そこで全身消毒、洗浄とマッサージを終わらせた後に血管に固定液と言われる薬液を流し込むことで血液を体外に排出させます。これを灌流固定法と言います。固定液を注入するためと、血液を排出するために遺体には小切開(数センチ程度)を施します。この切開痕は修復されます。固定液には、アルコール類、ホルマリン、フェノール、グリセリン、ラノリンなどの防腐、タンパク質固定、殺菌、凝固、硬化・乾燥防止などの作用がある薬品が含まれています。エンバーマーは遺体を観察しながら、固定液が血管全体にいきわたっていることなどを確認します。固定液の循環が進まない場合は、動脈に沿ってマッサージを行うようです。
内臓から体液などを抜く
固定液によって遺体の血液がすべて排出された後に、内蔵に残っている腐敗の原因である体液、血液、ガス、膿などを吸引して排出します。この吸引のことをアスピレーションと言います。トロッカーと言う器具を遺体に挿入し内臓内の体液などを吸引し、吸引後に血管に流し込んだ固定液を注入します。このエンバーミングは次のような内蔵のすべてに対して行われます。①肺、②気管、③気管支、④胃、⑤小腸、⑥大腸、⑦心臓、⑧腎臓、⑨肝臓、⑩膵臓、⑪膀胱、⑫胆のうなど。遺体の内部の血液と体液すべてが排出されて、固定液に置き換わったことでエンバーミングにおける施術は終了です。
遺体を整える
施術後に、切開の後を縫合し遺体をもう一度洗浄します。その後は衣装を着せ、化粧を施し、髪を整え、生前と同様の姿にするのです。
遺体の状態によって変化すること
施術の内容が大きく変わることはありませんが、死因や体格、脂肪率などによって、注入する固定液の成分配合量が変わります。エンバーマーは施術前に、遺体に関するさまざまな身体的、肉体的なデータを分析して最適なエンバーミングを施すように努めているのです。そして、施術しながら常に遺体を観察することで、もしも立てた仮説が違っている場合には、臨機応変に固定液の成分配合量を変えるなどの対処をしています。ここには外科手術にも似た化学的な知識と分析力が必要なのです。まさに科学といって差し支えないでしょう。