エンバーミングとは、ご遺体の消毒、保存、修復を行い、長期間保存を可能にする技法です。
エンバーミングは、火葬までの日数がかかる場合や遺体の損傷が激しい場合、海外から空輸で遺体を搬送する場合などに用いられます。
エンバーミングのメリットとして、保冷室に入れずに長期間保全できることや、腐敗に伴う感染症を防げることの他、故人が元気だった頃の姿に戻して心置きなく故人とお別れできることなどです。
デメリットとしては、処置の手間がかかることや費用がかかることが挙げられます。
エンバーミングを選択する際は、家族の同意が必要で「15万円~25万円」の費用が掛かります。
専用施設での処置が必須です。
日本では抵触する可能性があるため、専門資格を持つエンバーマーのみが行うことが許されています。
エンバーミングが日本に導入された当初は、すぐに火葬するので必要性を疑う声もありましたが、近年では徐々に利用者が拡大してきています。
エンバーミングについては、こちらにも詳しくまとめています。
⇒ ご参照ください。
目次
エンバーミングとは
エンバーミングとは、遺体を長期間美しい状態で保存するための技術です。
この処置には、防腐剤の注入や外見の修復が含まれ、遺体の腐敗を遅らせる効果があります。
日本では火葬が一般的ですが、近年、エンバーミングを希望する方が増加しています。
故人の遺体は何日間もつのか
日本では法律により「死後24時間を経過しなければ埋葬または火葬を行ってはならない」と規定されています。
そのため、遺体の安置期間は最低でも1日以上となり、「2~3日程度」が一般的です。
適切に保冷した場合でも1週間程度が限度といわれています。
エンバーミングを施すと、最大50日間遺体の保存ができるようになります。
実際、一般社団法人日本遺体衛生保全協会では、処置後50日以内に火葬または埋葬するよう規定しています。
エンバーミングは法律に違反しないのか
日本では、遺体を損壊・遺棄することは刑法で禁じており、処罰の対象となります。
しかし、エンバーミングはこの規定に抵触しません。
なぜなら、エンバーミングは遺体を適切に処置し保存する技術であり、医療や衛生基準に基づいて行われているからです。
「IFSA(一般社団法人日本遺体衛生保全協会)」などの団体が基準を設け、エンバーミングの適正な実施を監督し、法的に問題なく行われていることを担保しています。
エンバーミングの必要な場面とは
エンバーミングが必要になる場面として、下記のようなケースが考えられます。
- 火葬までの日数がかかる場合
- 遺体の損傷が激しい場合
- 海外から空輸で遺体を搬送する場合
それぞれ解説します。
火葬までの日数がかかる場合
エンバーミングが必要な場面の一つは、火葬までの日数がかかるケースです。
例えば、火葬場が混みあっていて予約が入れられなかったり、遠方からの親族の到着を待つために火葬の日程を遅らせたりする場合に用いられることがあります。
また、法的手続きや調査のために遺体の保存が求められる場合にも使われています。
遺体の保管にはドライアイスや保冷庫を使用しますが、長期間の保管には十分ではありません。
エンバーミングを行うことで、遺体の状態を長期間に渡り保てるようになります。
遺体の損傷が激しい場合
事故や災害で遺体の損傷が激しい場合や、病気の治療の影響で生前の姿と大きく異なるケースです。
エンバーミングを施して外観を修復し、遺族が安らかにお別れできるようにします。
海外から空輸で遺体を搬送する場合
海外から空輸で遺体を搬送する場合、エンバーミングが必要となることがあります。
長時間の移動や温度変化により遺体が損傷するリスクがあるためです。
防腐処置を施すことで、遺体の保存状態を保ちます。
また国によっては、遺体を搬送する際にエンバーミングが必要条件となる場合があります。
エンバーミングの流れ
エンバーミングの大まかな流れについて、順番に説明します。
1. 遺体の搬送
専門の搬送業者が遺体を安全かつ丁寧に回収し、全国各地のエンバーミング施設へ運び込みます。
2. 遺体の洗浄と消毒
エンバーミング施設に到着後、遺体表面の汚れや細菌を除去し清潔な状態にします。
洗浄には専用の消毒液が使用され、皮膚や毛髪も丁寧に洗浄されます。
3. 遺体の衛生保全
洗髪や髭剃り、保湿処置などで遺体の外観を整え、衛生状態を保全します。
4. 遺体の腐敗保全処置
専用の機器を使用して血管内に防腐液を循環させることで全身に行き渡らせ、体内の血液と防腐液を置き換えます。
また、体腔内の防腐処置も行い、内臓や組織の腐敗を防ぎます。
これにより、遺体の外観と衛生状態を長期間保てるようになります。
5. 着替えと化粧
腐敗保全処置が完了した後、遺体は故人が生前愛用していた衣服を着つけます。
遺族の希望があれば、生前の表情を再現するためメイクや調髪を施します。
6. 遺体の搬送
エンバーミング処置が完了した遺体は、葬儀場や遺族のもとに搬送されます。
エンバーミングを依頼するには
エンバーミングの手配方法と費用について解説します。
エンバーミングの手配方法
一般的にエンバーミングを希望するには、葬儀社に依頼して手配してもらいます。
エンバーミング施設と提携していたりする葬儀社を選ぶとよいでしょう。
依頼時には、遺族の同意書と死亡診断書が必要です。
エンバーミングにかかる費用
エンバーミングにかかる費用は、「15万円~25万円程度」が一般的です。
費用は遺体の状態や処置の内容、地域や提供する業者によって異なります。
修復が必要な場合や特殊な処置が求められる場合は追加料金が発生することがあります。
サービス内容や費用の詳細を確認しておきましょう。
エンバーミングのメリット
エンバーミングのメリットを「4つ」挙げて説明します。
保冷室に入れずに長期間保全できる
エンバーミングは、防腐処置によって遺体を保冷室に入れずに長期間保存することができます。
葬儀の日程調整や遠方の親族の到着を待つ際に非常に有効です。
冷蔵保存では一週間程度が限界ですが、エンバーミングを施すことで長く遺体の状態を良好に保つことが可能です。
また、皮膚が凍傷で傷むことを防ぎ、触れたときの冷たさも和らげます。
腐敗に伴う感染症を防げる
エンバーミング処置により、感染症のリスクが大幅に減少します。
遺体の腐敗は細菌の繁殖を引き起こし、周囲の人々に健康被害をもたらす可能性がありますが、防腐処置を施すことで防げます。
そのため、遺族は感染症を気にすることなく遺体に触れてお別れできます。
故人が元気だった頃の姿に戻せる
エンバーミングは、遺体の外観を整え、故人が生前の健康な姿に戻すことができる技術です。
事故や病気で遺体が損傷していたり、表情が変わり果てていたりする場合でも、修復メイクを行うことで、自然な表情を再現します。
遺族は故人の安らかな姿と対面することができ、最後のお別れが心穏やかに行えます。
故人の尊厳を守り、遺族にとっても慰めになります。
心置きなく故人とお別れできる
エンバーミングを施すことで、遺体の保存状態が良好に保たれ、遺族は心置きなく故人とお別れできます。
見た目が整った故人と触れることで、遺族は心を整え、死を受け入れる手助けとなるでしょう。
エンバーミングのデメリット
エンバーミングのデメリットを「2つ」挙げて解説します。
処置の手間がかかる
エンバーミングは高度な技術と時間を要する技術です。
専門の技術者が必要であり、遺体の洗浄、消毒、防腐処置、整容などの各工程に細心の注意が求められます。
また、遺体の損傷が激しい場合などには、さらに時間と労力がかかることがあります。
費用がかかる
エンバーミングの処置の費用は「15万円~25万円程度」が一般的です。
遺体の状態や追加の修復処置が必要な場合には、さらに費用がかかることがあります。
このため、葬儀にかかる費用が高くなる可能性があり、遺族にとって経済的な負担となります。
エンバーミングを依頼する際の注意点
エンバーミングを依頼する際に「注意すべき点」について解説します。
家族と十分に相談する
エンバーミングを依頼する前には、家族と十分に相談することが重要です。
エンバーミングを行うには、本人または家族の同意が必要なります。
エンバーミングの処置をするには、遺体にメスを入れる必要があり、抵抗を感じる人がいるかもしれません。
また費用も手間もかかります。
トラブルを避けるためにも、十分に話し合いをして、皆が納得してから依頼するようにしましょう。
信頼できる業者に依頼する
エンバーミングは専門的な技術や専用設備が必要ですので、信頼できる業者に依頼することが重要です。
「IFSA(一般社団法人日本遺体衛生保全協会)」などの認定を受けた業者を選ぶと安心です。
あわせて業者の評判や実績を調べ、事前に見積もりやサービス内容を確認しましょう。
エンゼルケア・死化粧とエンバーミングの違い
エンゼルケア・死化粧は、遺体を清潔にし、顔色を整え、髪を整えるなど、見た目を整える軽微な処置を指します。
これにより、遺族が故人と安らかにお別れできるようにします。
特殊な技術は要せず、多くの葬儀社では一般のスタッフが行っています。
一方、エンバーミングは防腐処置を施し、遺体を長期間保存するための高度な技術を含みます。
これには内部の洗浄、血液の防腐液置換、修復メイクなどが含まれます。
エンゼルケアは主に外観の整備に重点を置き、エンバーミングは保存と衛生保全に重点を置いています。
日本のエンバーミング事情
日本国内のエンバーミングに関する状況をお伝えします。
エンバーミングの件数
日本でのエンバーミングの件数は、近年徐々に増加しています。
2000年には1万件ほどだったものが、2015年には3万件となりました。
2022年には「7万件」を超えるほどになっています。
葬儀社の中には、エンバーミングを葬儀プランに取り入れるところも増えてきています。
日本人のエンバーマーの人数
日本で活動しているエンバーマーの人数は「160名程」です。
エンバーマーになるためには、専門の教育と訓練を受け、資格を取得する必要があります。
日本では「IFSA(一般社団法人日本遺体衛生保全協会)」がエンバーマーの養成と認定を行っています。
【エンバーミングとは?】必要な場面や費用、メリット・デメリットを解説 まとめ
エンバーミングの技術は、土葬を基本とする欧米で発達しました。
葬儀後すぐに火葬される日本では必要ないと考える人も多いです。
しかし、エンバーミングを施すことで生前の姿に修復が可能で、感染症などを気にせず最後のお別れができることから、年々件数が増えています。
今後もエンバーミングへのニーズは拡大していくでしょう。