世界各地には、チベットの鳥葬のような独特の葬送文化・慣習が存在します。沖縄の離島で50年くらい前まで残存していた(今も一部で残っている?)風葬と洗骨も実に独特な慣習でした。フィリインのルソン島の北部に住むイゴロット族には、「ハンギング・コフィン(懸棺葬)」という埋葬方法がごく最近まで残っていたそうです。奇界遺産の1つとしても注目されているようです。
遺体を退治のように丸めてからお棺を崖に吊るす
場所は、ルソン島北部の、1,500メートル級の山々に囲まれた山間地帯であるサガタという村です。ここにはイゴロット族という少数民族が住んでいます。彼らは、2,000年以上前から、死者を埋葬するときに、「ハンギング・コフィン(懸棺葬)」という方法をとっていたそうです。その方法とは、断崖にお棺を吊るすというものです。
人が亡くなると(自然死のみだという話です)、遺体を小さく丸めます。これはイゴロット族には『死んだ後は胎児の形に戻り、死後の世界に行き、転生を繰り返す』という死生観がもとになっています。遺体を煙でいぶして燻製状態にします。腐敗臭を抑えるためですね。その後、用意したお棺に遺体を収めて、崖に吊るすというものだそうです。
遺体をより天に近い場所に
なぜこのような埋葬方法を行っていたのかは、それなりの理由があるようです。それは、①より高い場所に遺体を置くことで、魂が天(転生するための場所)に近くなる。②野生動物に遺体を荒らされることを防ぐ。③昔フォリピンに存在した首狩り族による頭部持ち去りを防ぐ。これらが、「ハンギング・コフィン(懸棺葬)」が行われてきた背景として説明されています。
ハンギング・コフィン跡は人気の観光地
2,000年にわたって続いてきたハンギング・コフィンはアニミズム(自然崇拝)に基づく埋葬方法で自然葬の1種といえますね。現在のフィリピンは信仰の厚いキリスト教国としても知られています。サガダに住むイゴロット族も、現在は95%がクリスチャンという時代となり。埋葬は教会の墓地で行われるようになりました。2010年に吊るされたお棺が最後のハンギング・コフィンだそうです。
このあたりは観光地としても(欧米では)有名のようで、墓所ではありますがハンギング・コフィンが行われてきたエコーバレーという断崖が観光客に対して公開されています。なお、ハンギング・コフィンの跡が残る断崖は周辺にいくつもあるそうですが、それらは未公開だそうです。
『奇界遺産』という耳慣れない言葉を見つけました。調べてみると日本人のフォトグラファー佐藤健寿さんが、世界各地の奇妙な事物や風景を博物学・美学的な観点から撮影・記録した写真集「奇界遺産」「奇界遺産2」のことなのですね。なお「奇界」は佐藤さんの造語で、商標登録もされているそうです。