12月6日に全国公開されたばかり、ほやほやの作品です。お時間のある方は是非とも観に行かれることをお薦めします。小劇場中心の公開なので劇場数は多くはないですが、少し遠出しもて観る価値がある作品だと思います。
ロシア映画です。あまり馴染みがなく、監督も役者も知らないのですが、そんなこと関係なく楽しめる、そして“ほっこり”することができます。モスクワ国際映画祭で観客賞を受賞しています。
スタッフ/キャスト
名前を連ねてもご存じない名前が多いと思うので、監督のプロフィールだけ簡単にご説明します。
監督:ウラジーミル・コット
双子で映画監督をしているようです。凄いな、ご両親は鼻高々ですね。弟のアレクサンドル・コットは2014年の第27回東京国際映画祭で、『草原の実験』という作品で最優秀芸術貢献賞を受賞しています。ウラジーミルは長編デビュー作の『Mukha(2008)』で、第11回上海国際映画祭最優秀作品賞受賞という快挙を成し遂げています。
ストーリー
村に1つしかない学校で教鞭をとっていたエレーナは、退職後慎ましい定年生活を送っていました。1人息子のオレクは都会で仕事が忙しく5年に一度くらいしか帰ってこないことは寂しいのですが、素敵な隣人に囲まれて、彼女なりに満足する生活でした。そんなある日エレーナは病院で余命宣告に近い言葉をドクターから聞くことになります。オレクに迷惑をかけたくないと考えたエレーナは、1人で自分の死を迎えるための準備を始めるのです。彼女の願いは、惨めな死に方はしたくないことと夫が眠るお墓の隣に埋葬されること。たった1人で埋葬許可証やお棺、そして自分が死んだ後弔ってくれる人たちに食べてもらうための料理など、自分なりに考えた完璧なお葬式計画を進めるエレーナ。でも、どんな計画でも全て思いどおりにはなりません。彼女のお葬式計画の結末は・・・・。
独り暮らしの高齢者、子どもは都会で忙しくてほとんど帰って来ない。少しずつ身近になる自分の死。世界共通、どこにでもあるテーマなんだなぁ、これが最初に思ったことです。エレーナが「ぽろっ」と漏らす『5年に一度しか帰ってこない優秀な息子様さ』これを聞くと身につまされる人も多いのでは。
でもこの映画、邦題の「わたしのちいさなお葬式」から受け取る寂しさ、悲しさ、切なさが一切ない。またエレーナのお葬式計画はまさに終活で、しかも自分の余命を悟っているというか、『自分はもうすぐ死ぬ』と信じている設定なのに、彼女は実に明るくパワフルなお婆ちゃんなんです。こんな心構えを自分はできるのだろうか、自問してしまいました。『きっと無理だろうなぁ』
観終わって調べてみたら、原題の『Karp otmorozhennyy』は「解凍された鯉」という意味だそうです。どうやら、鯉とは息子のことで、母の終活を目の当たりにしたオレクが自分と母との人生を見つめ直すという主題が背景にあるようです。
タイトルから重めに感じそうですが、ユーモア満載、思わず笑ってしまうシーンが随所に散りばめられています。ロシア人に対するイメージも少し変わりますよ。
最後に、主題歌、劇中歌はなんとザ・ピーナッツの「恋のバカンス」のロシア後バージョン。これには超驚いた。「あれ?なぜ?」って。恋のバカンスは海外の歌のカバーだったの?これも調べてみました。逆でした。日本で大ヒットした「恋のバカンス」をソビエト(当時)の国営放送の幹部が気に入って、ロシア語でカバーしたところソビエトでも大ヒットしたのだそうです。ちなみに現在にいたるまでロシアでは世代を超えて愛されていて、原曲が日本の歌謡曲であることを知らない人も多いのだとか。ちょっと嬉しくなるエピソードでした。