今日ご紹介するのは2019年9月13日公開という、最近の作品です。ちょっと公開から間があいてしまったので、現在も上映しているのは九州などの一部の映画館だけですが、横浜の「横浜シネマリン」では11月からの上映を予定しています。ロングランになるような娯楽作品ではありませんが、観た人の評価は実に高く、皆さん感動したというメッセージを添えています。今後地方での上映や、首都圏でも小劇場などでの上映があるかもしれません。
「看取り士」という耳慣れない職業は、医療行為はできないけれども、余命が分かった人に寄り添って死の不安を取り除き、本人の希望をできるだけ叶え、その最後を見届ける人のことです。公的資格ではなく、一般社団法人「日本看取り士会」会長である柴田久美子さんが提唱し、2014年に看取り士会を設立、同法人が認定している民間資格です。その看取り士の活動を通して、人の死とそれに関わる人のあり方について考えさせられる映画です。
スタッフ
監督:白羽弥仁
統括プロデューサー:嶋田豪
プロデューサー:高瀬博行
原案:柴田久美子
企画:柴田久美子、榎木孝明、嶋田豪
脚本:白羽弥仁
主題歌:宮下舞花
製作:「みとりし」製作委員会
キャスト
柴久生:榎木孝明
高村みのり:村上穂乃佳
早川奏太:高崎翔太
清原:斉藤暁
清水キヨ:大方斐紗子
川島:宇梶剛士
山本良子:櫻井淳子
ストーリー
定年間際のサラリーマン柴久生(榎木孝明)は、ある日娘を交通事項で亡くします。喪失感から踏切に思わず飛び込もうとして引き止められた彼の耳に「生きろ」という声が聞こえます。それは、かつての同僚だった川島(宇梶剛士)の声でした。川島のお墓にお参りをした柴はそこで川島の最期を看取った「看取り士」だという女性と出会います。「生きろ」は川島の最期の言葉だったと彼女から聞かされた柴は、看取り士という職業に興味を覚え、定年を待たずに会社を辞め、セカンドライフとして看取りの仕事を選ぶ決意をするのです。
5年後柴は岡山県の地方都市にある「見取りステーションあかね雲」の所長として、スタッフとともに、地域の終末ケアに医療とは異なるアプローチで関わっていました。そこに若い高村みのり(村上穂乃佳)という女性が配属されてきます。彼女は、幼い頃に母親を亡くすという経験をしていました。過去に家族を失ったことがある柴とみのりは、悩みながらも最期の時を迎える人びとを温かく支えていくのです。
良い映画なのは間違いないですが、看取り士という存在が必要な社会が少し悲しい
間違いなく良い映画です。人の死、家族の死、自分の死を見つめ直すことができる。人の最期はどう看取るべきなのか、正解は1つではないと思いますが、なかなか考えることのないテーマなので、いざというときには何も考えられないでしょう。この映画を観ることで、常日頃から頭の片隅に置いておくことができるかもしれません。
ただ気になったのが「看取り士」の存在そのものについてです。ターミナルケアの重要性は国も認めていて、厚労省は「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」を定めています。ターミナルケアは医療行為ですから医療や介護の国家資格所有者以外は行うことはできません。看取り士は医療行為を行うことができないので、国家資格所有者の協力が不可欠になります。おそらく理想は医師や看護師、介護士が看取りを行えることなんだろうな、という感想を持ちました。
もう1つ、本来は最期まで寄り添うのは家族の役割のはずなんですが、高齢者に限らず寄り添うべき家族がいない人が増えているという、悲しい現代社会を目の当たりにした、そんな喪失感を覚えました。