グリーフケアという言葉を耳にしたことはありませんか?グリーフ(Grief)とは文字通り「悲しみ」でそれをケアすることです。具体的には、大切な人と死別した人がグリーフから立ち直るための支援活動を言います。今日はグリーフケアについて一緒に考えてみましょう。
日本では福知山線脱線事故を機に拡がった
グリーフケアという概念は1960年代にアメリカで生まれたとされています。大切な人を亡くすと誰でも大きな精神的なダメージ(グリーフ)を負います。多くの場合は、時が経つに連れて(人によって期間に差はあります)自然に立ち直っていくもので、この精神の動きは正常な心理反応とされています。しかし中には、正常な回帰を得られない人が生まれます。その場合にこのグリーフは精神だけでなく身体的な疾患も伴い長期化する危険性があるということです。このように正常な回帰が遅れるケースは、突然、何の予告もなく、たった今まで元気だったのに、愛する者を失ったという事例が多いようです。日本では2005年の福知山線脱線事故を機にグリーフケアの存在と必要性が拡がったといわれています。東日本大震災をはじめとした頻発する災害・風水害、突然の自動車事故、通り魔による犯行。毎日のニュースで、突然大切な人を奪われて悲しんでいる、というより呆然としている遺族の方々を目にする日が多くなっています。そんな遺族が悲しみの中から、現実社会に回帰するための支援活動というわけです。
もちろん、グリーフケアが必要になるのは突発的な死で愛する人を奪われた人だけではありませんので、補足しておきます。
グリーフにはプロセスがある。理解し気になることは相談
医療の中で精神科は今でも最も多くのことが分かっていない分野です。「グリーフ」といわれる分野も、鬱病の1つとして捉えられていたかもしれません。何よりも、身近な人の突然の死は現代に生まれたわけではなく、古来より人間の生にはありえてきたことでしたから。しかし、1つの特別な精神的な疾患であるとして研究が進み、ケア・支援するための方法論が確立されつつあります。
日本におけるグリーフケア研究の第一人者で「日本グリーフケア協会」の会長でもある、宮林幸江東北福祉大学教授によると、大切な人の死と直面した場合に起こるグリーフ反応は次の4つのプロセスを経るそうです。
① 「思慕」「追慕」-亡くなった人を慕う、想う気持ち
② 「気後れ感」「疎外感」-自分はほかの人とは違う、という気持ち
③ 「うつ」に似た症状-生きる目的や目標を失いやる気がでない、何をしても不安や虚無感に襲われる
④ 「前向き」「ポジティブ」-頑張らなきゃ、と元気に日々を過ごそうと苦しい自分を忘れるように努力する
この4つのプロセスは個人差があり、表出する順番、時期、程度はまちまちだそうです。最終的に④に回帰するのに、例えば親だと3年、配偶者だと4~5年、子だと5年以上要するそうです。
しかもそれは、一般的な回帰例です。より症状が重度になった場合には、さらに回帰が遅れる、別の精神・身体的な疾患を引き起こす危険性も出てきます。自分がそうならないため、また家族をそうさせないために、何か思い当たるときは「日本グリーフケア協会」やグリーフケアアドバイザーなどの専門家にすぐに相談しましょう。
葬儀は悲しみを癒やすための重要な場
葬儀という儀式は、故人を成仏させるためのものでもありますが、実はもう1つの(というか実はこちらこそが意義があると筆者は考えています)目的があります。それは大切な人を亡くした遺族や親しい人が、故人とお別れをし「告別式」という儀式を経ることで死を受け入れ、故人のいない生活や社会に一歩を踏みだすためのきっかけの1つになる、ということです。グリーフ(悲しみ)は抑えることでより大きくなるのではないかと思っています。思い切り泣き叫んでもいいから、悲しみを表出する場、感情を爆発させることでグリーフが少しでも和らぐ、それが葬儀ではないかと筆者は考えます。
葬儀式、告別式は儀礼的で好まないという人が増えていますが、この儀礼的な中に遺族がグリーフを思い切り表出することができる舞台が整えられている、といったら言い過ぎかもしれません。でもちょっと考えてみてください。式を一切行わない直送(火葬式)や、家族だけの小さな葬儀に、感情を表出させて泣き叫ぶ場面はなさそうな気がするのですが。どう思われますか?