2019年5月13日にユネスコの諮問機関であるイコモスが、日本政府が推薦していた「百舌鳥(もず)・古市古墳群」を世界遺産に登録すべきとユネスコに勧告を行ったというニュースが流れました。仁徳天皇陵(大仙古墳)など推薦していた49基の古墳全てが6月に開催される世界遺産委員会で正式に登録される見通しです。
一般公開されないのに文化遺産?
以前、仁徳天皇陵の発掘調査に宮内庁外の学芸員が初参加、という記事を掲載しました。皇室の陵墓とされている古墳の全てが宮内庁管轄で一般には非公開で学術調査さえ原則不可とされています。今回登録されるであろう49基の古墳のうち大半の29基が陵墓として宮内庁管轄となっているため、世界遺産に指定されたとしても内部に入ることは叶いません。百舌鳥エリアがある堺市、古市エリアがある藤井寺市と羽曳野市では既に世界遺産を活用した街づくりといった声もあがり、便乗商法の展開も始まっているようですが中に入ることもできないのに文化遺産、観光資源と言えるのでしょうか。
宮内庁と文化庁の関係は
世界遺産への推薦は政府が行い、担当する行政機関は文化庁です。陵墓である古墳は、文化庁が所管する文化財保護法の対象外で文化財保護行政の手は届きません。国が、陵墓が含まれる古墳群を世界遺産に推薦する際に宮内庁は、従来どおり非公開で保護管理を継続できるのであれば反対はしない、という立場でした。一方で文化庁には文化財の保護と活用というミッションがあります。世界遺産登録を推進するのも、そのミッションに含まれるものだと考えられるのですが、自らが主体性をもって施策を行うことができない陵墓のほうが多い古墳群を世界遺産にしようとしたのは少し理解に苦しみます。もしかすると文化庁は、世界遺産登録をきっかけに陵墓を文化財保護法の管轄下に置く文化財とすることを狙っている、という見方は穿ち過ぎかもしれませんが、ちょっと面白くないですか?
いずれは一般公開されることを期待
古墳は最大規模の仁徳天皇陵でなくともいずれも大きく、近くに寄って見上げても小山にしか見えません。上空から見ない限り、その雄大さ、荘厳さは分かりませんので、内部に入ることができなければ、見に行っても仕方ない気がします。それにしても、なぜ中に入れないのかちょっと調べていたら、国会(2010年、平成22年)で当時衆議院議員だった共産党の吉井英勝さんの質問とそれに対する政府(民主党政権で菅直人総理大臣のときでした)答弁が見つかりましたので一部だけをご案内します。
吉井議員の質問
陵墓は国有財産法上、皇室用財産として宮内庁が管理しているものと思うが、学術目的での自由な立ち入りまでも禁止する法的根拠はどこにあるのか。自由に陵墓に立ち入ったり墳丘に上ったりすることは、法的に禁止されているのか。
宮内庁が陵墓の管理上、研究者をはじめ国民が陵墓に立ち入ることすら禁じる権原はどこにあるのか。
政府答弁
国有財産法第9条の5においては、「各省各庁の長は、その所管に属する国有財産について、良好な状態での維持及び保存、用途又は目的に応じた効率的な運用その他の適正な方法による管理及び処分を行わなければならない。」と規定されている。
宮内庁としては、その所管に属する同法第3条第2項第3号に規定する皇室用財産である陵墓等について、天皇及び皇族を葬る所であり、静安と尊厳の保持が最も重要とされるという陵墓等の本義にかんがみ、同法第九条の五の規定に基づき、適切に管理している。
つまりは、陵墓は国有財産法で宮内庁の所管と定められているため、宮内庁はその維持保存に責任がある。そして、陵墓の用途と目的は天皇及び皇族を葬る所として静安と尊厳を保持することである。そこで、関係者以外の立ち入りを厳禁とする。ということなんですね。
一応法的根拠はありました。しかし法律を拠り所にする以上は、法律が改正されたら一般公開される可能性もゼロではないですね。今回の世界遺産推薦を機に一般公開の要望が数多く出ているようです。宮内庁は徹底抗戦すると思いますが、中に入ってみたいという人は多いと思います。どう進展するのか、いろんな視点から興味津々です。