さまざまな理由からお葬式をしないという選択をした場合は、お葬式をしない代わりに何かしなければいけないのか、どんなことが起こりうるのか、結論を出す前に十分な検討が必要です。
法律面からの整理
まず法律上許されるのかどうか整理しますね。日本では、「墓地、埋葬等に関する法律」という法律が唯一規制の拠り所になっています。そこで定められていることは、
第4条 埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に、これを行つてはならない。
第9条 死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないときは、死亡地の市町村長が、これを行わなければならない。
この2つの条文から分かることは、人が亡くなったら『埋葬または火葬を必ず行わなければいけない』ということです。条文は、埋葬または火葬を行う者がいるのにそれが行われていないときは、行政(市町村長)から行うように指導または行政命令がくだされる可能性があると解釈できます。そして次の条文には、
第2条 この法律で「埋葬」とは、死体(妊娠四箇月以上の死胎を含む。以下同じ。)を土中に葬ることをいう。2 この法律で「火葬」とは、死体を葬るために、これを焼くことをいう。
とありますので、墓地に葬るのであれば火葬に限定されていないことが分かります。
このように法律では、埋葬または火葬が義務付けられていますが、お葬式をあげなければいけないという条文はどこにもありません。ですので、直葬(火葬のみ)をすれば法的にはお葬式をあげなくても問題ないということになります。
しなければいけない手続き
人が亡くなったときは戸籍法という法律で、その死を知ったときから7日以内に「死亡届」の提出が義務付けられています。死亡届を提出することで、火葬・埋葬の許可を受けることができます。多くの場合は、お葬式の運営一式を頼んだ葬儀社が死亡届の提出、火葬・埋葬許可証の受領を代行してくれますが、もしも葬儀社を使わないとしたら、自分でその手続きをする必要があります。
【直葬】と葬儀社
直葬(火葬式)だけをするときに葬儀社を使わないとしたら、棺や骨壷などは店舗や通販で購入することもできますが、霊柩車の手配1つとっても結構面倒なことになります。直葬を引き受ける葬儀社の数は増えているようですが、身近にある葬儀社が対応してくれるとは限りませんので、まずはその確認をすることが必要になってきます。直葬を葬儀社に依頼する場合の費用は、概ね30万円でお葬式費用の全国平均189万円(「第10回『葬儀についてのアンケート調査』(2014年(財)日本消費者協会)」)から大幅に安価となります。もしも頼むことができる葬儀社がない場合は、すべて自分で次のような一切をやらねばなりません。
◯病院で亡くなる
↓
◯遺体を自家用車で自宅に搬送する
↓
◯自宅に安置する
↓
◯遺体に腐敗防止措置(ドライアイスなど)を施す
↓
◯棺を購入する(亡くなった後、納棺に間に合えばいつでもOK)
↓
◯市区町村役所に死亡届を提出し、火葬・埋葬許可証を入手する
↓
◯火葬場を予約する
↓
◯火葬当日に納棺する
↓
◯火葬場に自家用車で搬送する
↓
◯火葬
↓
◯拾骨
↓
◯埋葬
どうですか。かなり面倒ですよね。
お葬式をしないとき起こりうること
日本ではまだ、お葬式をしないという選択肢が広く共感を受けているわけではありません。そのため遺族は、親族、故人と縁ある人、世間一般から『あの家(人)はお葬式をしなかった』という目で見られる、評価を受けることを覚悟しなければいけません。遺族は故人亡き後も、人生、生活が待っています。人は1人で生きていくことはできません。お葬式をしないという選択肢が、人との繋がりを拒否している側面だと受け止められてしまったら、決してプラスに働くことはないでしょう。
また、宗教的儀式を伴うお葬式をしないことで、菩提寺の墓地への埋葬を拒否される可能性があります。お葬式をしないので、菩提寺に連絡するのは埋葬直前になりがちでしょうから、そのときに断られたら大変です。早めの確認が必要ですね。
最後にもう1つ。国民健康保険の加入者は「葬祭費」という給付金が受けられますが、お葬式をしなかった場合は、葬祭を行っていないということで給付金が受けられない市区町村もあります。
健康保険から給付を受けられる埋葬費・葬祭費
https://www.gojyokuru.net/syukatu/other/603/
お葬式は確かに面倒です、お金もかかります。でも故人を弔う、見送るだけでなく、家族、親族、故人と縁あった人の繋がりの場でもあるんです。日本は東日本大震災の後、人との繋がりをとても大切にする社会になってきたという話もありました。特に若い世代は繋がりを大切にしています。そんな中で、お葬式をしないという選択が増えていることを、筆者は不思議に思っています。