2020年10月14日の朝日新聞夕刊の一面トップに『自宅に墓石~遺骨も収納身近にしのぶ』という見出しを見つけました。滋賀県の浦部石材工業さんという石材事業者が開発・販売をしている自宅に置く墓石と、その墓石を購入し自宅に焼骨(遺骨)を収納した墓石で手元供養を考えている人の紹介記事です。記事を読むと『都市部の高齢者を中心に売れている』とあります。コロナ禍の中で葬儀や墓参りを敬遠する動きが出ていることから、今年はとくに売上好調だとか。でも、この「たくぼ」も墓石があったとしても手元供養なのですから、手元供養特有の問題点(課題)は残されています。
- イラストは手元供養のイメージです。「たくぼ」の場合は骨壷が小型の墓石の中に収納されることになります。
朝日新聞の記事では、墓石を自宅に置いて焼骨を収納し手元供養とすることは法的には問題ないことを確認して浦部石材工業さんが事業化したこと、改葬が増える一方で手元供養が増えていること、地方では廃寺も増え墓地の管理者が不在の場合もあるので地域の実情に合わせた墓があってもよいのではないかという全日本仏教会の話、などを紹介しています。いずれも墓を取り巻く環境として正しいご指摘だと思います。ただし、手元供養を巡る問題点には触れられていないことが、気になりました。
焼骨の全てを「たくぼ」に納めるのだろうか
火葬された焼骨は遺族に引き取る義務が生じます。この焼骨引き取りに関しては市町村条例で明確に定められています。ところで、関西圏と関東圏では引き取る焼骨の分量には、慣習的な違いが存在しています。関西圏では焼骨の半分程度を遺族が引き取り、残った焼骨は斎場が永代供養に付すというのが一般的です。一方で関東圏は全量を引き取らなければいけません。そのために関西圏と関東圏では骨壷のサイズが異なるのです。一般的な関西圏の骨壷のサイズは約9から15センチ、関東圏のサイズは21から24.5センチとかなりの違いがあります。関西圏の骨壷であれば、自宅に配置してもそれほど邪魔にならない小型の墓石でまかなうことができそうですが、関東圏の骨壷が入る墓石は結構目立つサイズになりそうな気がします。記事に掲載されている「たくぼ」に骨壷を収納するスペースは、7.5センチだというので、これは明らかに関西仕様です。滋賀県の慣習は関西圏だと思われるので、少し小さめではありますが、問題なく収納できるのでしょうが関東圏の骨壷だと完全にNGですね。となると関東圏の遺族は引き取った焼骨の一部しか収納できないことになります。
焼骨は廃棄できない
何度かご説明していますが、焼骨を破棄するのは犯罪です。焼骨の一部だけ引き取り残りは永代供養してくれる関西圏と異なり、焼骨の全量引き取りが義務付けられている地域では「たくぼ」は事実上不可能ということになります。記事を読むと東京からの注文もあるということなので、大丈夫なんだろうか、分かっているのだろうか、と心配になりました。可能性としては、自宅に置く墓石(たくぼ)に焼骨を納めて、納まらなかった焼骨は樹木葬など永代供養墓に納める方法が考えられます(繰り返しとなりますが、散骨はグレーゾーンなので、ここでは推奨しません)。たくぼは、墓地に建てる墓石よりも大幅に安価(10分の1以下)のようですが、関西圏以外でたくぼを考える場合は、それ以外の費用が発生する可能性があることは念頭におくべきでしょう。
改葬からたくぼは現状非現実的
朝日新聞の記事では、改葬が増えていること、手元休養が増えていること、を紹介していますが、これは改葬した後に手元供養にするケースが増えていることを言っているわけではありません。ただ勘違いする人が出てきそうな表現ではあります。先日も書きましたが、改葬するためには改葬許可証が必要です。そして改葬理由に手元供養、改葬場所を自宅で改葬の許可がおりた例は、いまのところないと思われます。しかし、墓を取り巻く環境は変化しています。遠くない将来に、手元供養&自宅で改葬許可がおりるように条例が改正される可能性はあるかもしれません。それは、関東圏の焼骨全量引き取りに関しても言えることです。
いつかは永代供養にする必要がある
これも先日書いたことです。焼骨は破棄できません。自宅の墓石を、自分が死んだ後に相続してくれる人がいなければ、やはりなんらかの方法で墓所に埋葬しなければならないのが、現在の「墓地、埋葬等に関する法律」です。この法律は昭和23年、つまり戦後すぐに公布されたものなので、改正される可能性もあります。ただし、改正されるまでは、この法律による規制が生きていますので、自宅に墓石を置いて手元供養とする場合も、法律や条例をよく理解した上で判断・行動するようにご留意ください。