家族が亡くなったとき、遺族がはじめにやること、それは訃報を親族や故人と縁ある人に知らせることと葬儀の準備を開始することですね。現在の葬儀は、ほぼ葬儀社に委託することになりますので、葬儀社の選定と依頼が葬儀の準備の第一歩となります。実はそれと同時に決めなければいけないことがあります。それが、遺体をどこに安置するのか、なのです。
自宅に安置は減ってきている
以前は日本中どの地域でも、遺体を安置する場所は自宅と相場が決まっていました。一戸建ては勿論、アパートなどの集合住宅でも遺体は自宅に安置されていました。古い映画やドラマでは、アパートの一室に遺体が安置されているシーンを見かけることもできます。しかし最近、特に都市部では自宅に遺体を安置する数が減っているようです。
現在の特に高層マンションをはじめとする集合住宅の、狭いエレベーターには遺体や納棺後のお棺を運ぶ機能や設備がないために、自宅に安置することができない、という説明を見かけます。しかし、ここ20年くらいの間に造られたエレベーターであれば、正面の壁を取り外して後ろの空間を活用し、ベッドやピアノ、人を載せたままのストレッチャーなど、長形のものをそのまま運ぶ機能がまず付加されていますので、残念ながらこれは説得材料に乏しいですね。
おそらくは、現代の都市部の特徴である、マンションなど集合住宅は隣家であっても親交が少ないという生活環境の中で、自宅での遺体の搬入や搬出を躊躇うことが最大の理由なのではないかと思います。
一戸建てであっても、近隣の目を気にして自宅に安置しないという人も増えているようですね。それと、これは一戸建ても集合住宅も共通なのですが、自宅に安置する準備、そしてその後の片付けが煩わしいというのも理由の1つなんだろうと思います。
自宅以外に遺体を安置する場所
では自宅に安置しないとしたら、どんな選択肢があるのでしょうか。遺体を安心して衛生的に安置できる場所は限定されます。
① まず考えられる選択肢の1つが斎場(公営、葬儀社)です。斎場には遺体を安置する場所が必ず設けられています。費用が安価なのは公営の斎場ですが、基本的には火葬に付すまでの間安置をするための施設であるために、葬儀日程も決まっていない、つまり火葬する日程が決まっていない段階では利用できないと考えておいたほうが良いでしょう。となると葬儀社の斎場にある安置施設となります。遺体の安置だけを受けてくれる葬儀社もあるでしょうから、葬儀は別の葬儀社に依頼することもありですが、まぁ普通は遺体の搬送から遺体の安置、葬儀全般を一式で任せることになると思います。費用は葬儀社により、プランにより千差万別です。しかし、不幸は予定することができない難物です。近場にある葬儀社の安置施設に空きがないときや、あるいは安置施設がある葬儀社がないときはどうすれば良いのでしょうか。実際に自社斎場を持たない葬儀社のほうが数は多いのが現状です。
② 次の選択肢が、近年都市部で増加傾向にある、遺体ホテルといわれる遺体の預かり所です。日本は既に多死社会を迎えつつあるために、とくに東京では斎場、火葬場の数が亡くなっている人の数に追いついていません。場合によっては、亡くなってから火葬に付されるまで1週間から10日間もかかるケースもあるようです。葬儀は火葬の日取りから逆算して日程が組み立てられます。例えば火葬が10日後になれば、葬儀も10日後に、通夜はその前日の9日後に、このような日程となった場合に、全ての葬儀社が1週間以上遺体を預かってくれるかというと、①の最後にも書いたように自社斎場を持たない葬儀社のほうが多いという現状から、かなり厳しいのではないでしょうか。自社斎場があっても、遺体預かりが本業でないので、長期間は厳しそうです。
遺体を安置する場所が不足している、という社会課題を解決するために生まれたのが、遺体ホテルというわけです。葬儀社も兼業している事業者もあるでしょうが、専業の場合は病院から遺体の搬送、遺体の安置、葬儀場への遺体の搬送が一連のサービスとなっており、衛生的で安心して遺体を預けることができるようです。ただし費用はそれなりにかかります。搬送費は10キロあたり1.5万円から、保管料は1日1万円から、ドライアイス代は別途というのが標準的な費用のようです。
そう考えると、遺体をどこに安置するのかも遺族には結構悩ましい問題だということになります。終活をされるときには、自分の葬儀をどうするのか決めておくと遺された家族の負担が大幅に減ります。できれば生前見積もりをとって葬儀社を決めておくのが良いのですが、その際に自分の遺体をどこに安置するのかも踏まえて葬儀社を決めるとともに、葬儀社とは、さまざまな可能性を考慮して遺体の安置はどうするのかシミュレーションしておくことも大切な終活なのかもしれないですね。